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信頼とプラットフォーム
今回紹介する著書は、
レイチェル・ボッツマン著『TRUST』日経BP
ジェフリー・G・パーカー他著『プラットフォーム・レボリューション』 です。どちらも骨太な経済学書です。ぜひご一読を。

信頼については前回少し述べましたが、日本人は長い間、集団主義社会に暮らし、その結果信頼することがやや苦手になってしまいました。どちらかといえば信頼よりも気遣いの土壌なのかもしれません。
日本でも、今では普段はアマゾンで日用品を買い、楽天で食料品、食べログでランチを検索して、ウーバーイーツで夕食を調達するなどは当たり前で、ユーチューバーやゲーマーで生計を立てることも珍しくない時代となりました。マッチングアプリで結婚まで行きついた友人もいますし、これらは洗練されたプラットフォームを信用して消費者側、そして生産者側が選択した結果でしょう。
現在の消費者はプラットフォーム(消費者側からはホームページのような入力サイト)上ではあるものの、売る側が全く見えないのに、企業やその先の生産者を信用して、生活のかなりの部分を依存するようになっています。生身の人間を信用するのは苦手でも、ネット越しならハードルは低くなるのを、経験的に感じた方は多いと思います。
人を信頼するには、経験も技術も必要ですが、ネット上では通常とは信頼の形が異なります。ボッツマンによれば、これを分散された信頼といい、彼女によればこれは、個人間で横に流れる信頼で、ネットワークやプラットフォームやシステムによって可能となると定義しています。人同士の信頼のような強さはなくて、日本人などはちょうどいい感じの信頼感で、のめり込む要素は大いにあると思います。
さらに彼女は、分散された信頼こそ、わたしたちがレストランからチャットポットからウーバーの運転手まで(日本ではウーバーはお試しの段階から進みませんでした)とりつかれたようにすべてを評価してレーティングをする理由なのだ。と述べています。
昔に比べて、今のプラットフォームはキュレーション(まとめたり、整理すること。無駄な検索をしないで目的にたどり着ける)が機能して、レビューやレーティングを頼りに判断しても満足できるものが多くなっています。もちろん今でもフィッシング詐欺などの偽サイトへ誘導されるものもあるので、分散された信頼を最大限利用するためにも、やはり経験や技術は必要でしょう。

パーカーの著書によれば、ビジネスモデルでいうプラットフォームはパイプラインと対概念として捉えている。従来のビジネスではパイプライン型が基本形だった。と述べています。これは前回述べたプッシュ型企業と同義語と考えられます。
パイプライン企業のわかりやすい形態としては、製薬企業が代表的で、開発部門でドラッグの骨格を決め、スクリーニングを経て、薬効性、安全性等の試験を経て、臨床試験(治験)。その後承認申請、その後認可が出たのちに薬として世に出るという一連の直線的な一連のプロセスをパイプラインと呼びます。 この一連の流れの中には工程の中にゲートキーパーがいて、彼らが消費者や使い手の前で受け入れを判断することとなります。
スタートの発想は開発のプロ達の戦略により決定します。そして途中の結果により、ゲートキーパーとなる責任者がドロップさせるか、次に進むか決定します。それを繰り返し最後までたどり着いたものが製品となります。しっかりしたチェック機能がなければ実際に治療に使うわけにはいかないので、絶対に必要なステップを各所の責任者がゲートキーパーが担っています。
一方、パーカーによれば、プラットフォーム型ビジネスモデルの特徴は、ネットワーク効果による価値形成であり、多くの買い手と売り手が参加してお互いの相互作用をおこすような場と機会を提供することである。と定義しています。
そしてネットワーク効果効果が働くとプラットフォームにおける参加者がプロであろうがなかろうが関係なく、参加者の増加に伴いそのプラットフォームの価値は高まります。そのプラットフォームの適正管理を行う役割は、パイプラインのゲートキーパーに対して、キュレーターが担うことになります。
パイプラインの比べて、プラットフォーム上の自由度は高いので、意図すれば違法な場を形成することも可能なため、参加するには注意しなくてはいけない部分もあります。そして参加者の信頼を損なわないようにするため、キュレーターの責任も重大だと思います。
プラットフォームの最大の特徴は、パイプライン型では見出すことのできないサプライヤーや、消費者側の潜在的なニーズを素早く掘り起こすことができる点だと思われます。またそれらが更にきっかけとなり、プラットフォームが賑わう連鎖が起こり、プラットフォームの価値はもっと高まることとなります。
このようにプルの力を利用したプラットフォームの経済へのインパクトは強力で、プラットフォームは経済のあらゆる分野を変容させ、既存企業を置き去りにしてきた。これほど多くの産業で、これほど急速に、単一の新しいビジネスモデルが現場に浸透する状況が見られるのは珍しい。とパーカーは述べています。
プラットフォーム上では、隠れた才能が発見されたり、今までならありえないような出会いがあったりします。それも瞬時で。今までゲートキーパーが制御していた社会が、一部ながら、その制御から解放された結果、革命的な変化がいたるところで起きています。
またパイプライン企業の中にも、パイプラインの一部をプラットフォーム化する企業も現れてきており、プラットフォーム革命のインパクトの強さが伺えます。
一方で、彼は、教育、政府、ヘルスケア、金融、エネルギー、製造業にしても、私たちの経済、社会、暮らしの最重要側面の多くでは、プラットフォームの台頭による影響はほとんど見られない。とも述べています。経験を積んだプロしか判断できない局面が多い分野では、プラットフォームのシステムは今だ発展途上ということだと思われます。
しかし、昨今の長期停電などの想定外の災害が起こり、今後対策をとる必要があるきに、今回問題の起こった電気のインフラについては、プラットフォーム技術でローカルに送電網が構築されれば、電力の効率的な利用につながるばかりか、災害への対応も可能ではないかといわれています。
地域にある太陽光発電施設をスマートグリッドといわれる次世代送電網につなぐ必要がありますが、そのためには、発電が不安定な太陽光発電や風力発電を使いながら、需要と供給のバランスをとることが大切で、プラットフォームの制御用のキュレーションが進化すれば、先の話かもしれませんが、実現も可能と考えられます。
こうしたリソース集約型産業は、情報集約型の産業とは異なり、プラットフォーム上での制御はいままで受けてこなかったため、解決すべき問題はたくさんあると思いますが、スマートメーターなども徐々に普及していますし、スマートグリッドの構築の必要性は高いと思われます。
これからスマートグリッドが機能するためには、スマートメーターが普及し、各グリッドがネットとつながることが第一段階で、その後ネットワーク化させ、省コストを目的にプラットフォーム上でAIが瞬時に需給バランスをとれば、理想的だと考えられます。
昨今のローカルな停電に際して、太陽光発電施設を持っていても停電時に十分に機能していない(そもそも長期停電など想定されていない。)状況等を目の当たりにすると、ローカルなスマートグリッドの構築は時代のニーズではないでしょうか。
しかし、スマートグリッドの構築にあたって、逆潮流(送電線上の電圧が高くなって発電施設から電気を送り出せない)の問題やデマンドレスポンスなど難問が多く、それらはプラットフォームを進化させ対処しなければならない課題だと思われます。
災害発生時に、散在する太陽光発電施設を有効に利用して、スマートグリッドにより災害に対するリスクを軽減させることに役立てば良いと思います。
これからのプラットフォーム革命として、もう一つ注目されているものが、ウーバーによるシェアライドであり、パーカーによれば、これまでの変化はおそらく、今後起こるであろう破壊の最初の一撃であることだ。最終的には、全輸送部門が一変する可能性がある。もし製図段階からショウルームへと急速に実用化が進んでいる他の技術とプラットフォーム・モデルが結び付けば、ウーバーの既に素晴らしいビジネスモデルがさらに改善され、タクシー業界を超えて一連の連鎖的な衝撃を起こすだろう。ある未来学者は何百万人もの人々が一斉に自動車を所有しなくなり、呼べばすぐに来て、1マイル約50セント(1.6㎞を50円程度)で行きたい場所に運んでくれる、ウーバーの無人自動車に頼るようになると予想する。ウーバーのトラビス・カラニックは、車を所有するより、ウーバーを使ったほうが安い状態にしたい。と語る。そして最終的に約束するのは水道水と同じくらい信頼性のある輸送である。と述べています。
さらに彼は、その意味するところは衝撃的だ。大手自動車メーカーは市場縮小による打撃を受けるだろう。自動車保険、自動車ローン、駐車場などの付随ビジネスも同様だ。他方、駐車場の需要が突然減り(無人自動車はほぼ休みなしで利用できるため)、何千万フィートもの開発用地が利用できるようになる。またどの街中でも渋滞がほぼ解消され、駐車場を探してノロノロ運転することで生じる大気汚染や渋滞も大幅に減る。ウーバーの次の成長段階のビジョンが実現すれば、アメリカの景観は見分けがつかないほど変わるだろう。とも述べています。
果たしてこのストーリーがいつ頃実現するか。それとも違うストーリーになるかは、定かではありません。
これが実現されると周りに及ぼすインパクトが強すぎるため、既存業界がそのまま黙っているわけがないとも予想されます。多分さまざまな局面で折衷案が出され、ビジネスモデルとしてはかなり変移することも考えられます。
ウーバーのライドシェアリングは日本では、数年前に法規制等により、お試しから止まっている状況であり、現行のビジネスモデルでは、低信頼性気質が根強い日本では、レビューやレーティングのデータがそろっていても、赤の他人の車に乗るというのは相当の違和感があると思われます。さらにタクシー業界もその危機感からか、アプリなどを使い、以前に比べ利便性が格段に進歩しています。また個人のレベルでも、景気の低迷の対策として、経費の安い軽自動車や、低燃費のハイブリッド車などの選択など現実的な対応は進んでいます。
したがって稼働率の低いマイカーをライドシェアに利用するという発想から始まった、ウーバーのビジネスモデルは今のところ、いろいろな面で日本には馴染みづらいと考えられます。
しかしこれが完全自動運転のタクシーとしてウーバーが運用を始めると、(自動運転車の運用だったら別にウーバーの登場を待たなくても可能かもしれない)景気低迷の中、稼働率の低いマイカーを持つのがしんどくなったユーザーは、手放すことに抵抗は少ないと考えられ、普及する可能性は高いと考えられます。ただどれだけ待てばそのインフラが整備されるかは、自動運転の普及次第と考えられ、まだ相当先の話かもしれません。
それでも日本では、ネットやマシンに対しての信頼は、生身の人間に対するよりはハードルが低いものと考えられ、自動運転タクシーは受け入れやすいと思われます。したがって自動運転が実用化された時には大きな変化を経験することになるでしょう。ですが先ほども述べたように、実際にはその移行期も含めて相当先の話になると思います。
パーカーは、このように情報社会の発展に伴いプラットフォームがビジネスモデルの基本概念として革命的に台頭していることがわかる。と述べています。
確かにメディアなどの情報集約型の産業や、小売業や出版業界などはユーチューブやアマゾンなどのプラットフォームにより、大きな影響をうけていますが、規制の強い産業や、エネルギー関係は、今までプラットフォームが構築されなくても、現行の技術できっちり管理されてきました。
しかし災害や、産業活動の環境への負荷が問題となりつつある現代では、わずかな省エネや省コストも重要であり、各産業でプラットフォームを構築して、最適な状況を作ることは必要とされると考えられます。