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日本人の失敗とリフレクション(省察)

最終更新: 2019年11月14日



今回紹介する書籍は

妹尾堅一郎著『技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか』ダイヤモンド社

大前研一著『稼ぐ力をつける「リカレント教育」』プレジデント社

どちらもしっかりアドバイスをもらえる良書だと思います。


 昨今のトレンドとして、今の答えのない時代には、小さな失敗を重ねながら、自ら答えを見つけることが肝要だというビジネス書が多くなりました。私もその考えにはとても共感できるのですが、失敗という文字にはやはり抵抗があります。過去のブログで事業に失敗したことは述べましたが、その時の記憶がよみがえるたびに嫌な感情が噴出します。

 何かを成し得るには、ちょっとの失敗ではめげない胆力が必要となるわけですが、なかなか失敗には慣れないものです。周りにも失敗を平然と受け止める人物はそうそういないと思います。日本人にとっては、生涯失敗しないことが重要で、それで行動が慎重になるのが日本人であり、そのマインドには決して失敗してはいけないという条件付けがなされています。そしてそれははるか昔から刷り込まれているような気がします。

 

 そこで今回は日本人の失敗について少し述べてみたいと思います。このジャンルには失敗学という著書も多くて、特に大戦中の日本軍を引き合いに出すパターンがみられます。

 妹尾氏によれば、彼には「真珠湾・マレー沖海戦思考」と呼ぶものがあり、これは「勝った理由をしっかり認識せず、また負けた原因をしっかり分析せず、それらへの対応を真剣に考えておらず、それゆえ適切な対応をしないこと」を意味するそうです。

 彼は著書の中で、マレー沖海戦において、日本海軍の航空部隊が当時世界一といわれた英国の巨砲戦艦プリンス・オブ・ウエールズを沈めました。明らかに、空は海に勝ったのです。この事実は、世界の軍事関係者の衝撃を与えました。そして連合軍は、巨砲戦艦主体バトルモデル時代の終焉を悟り、空母機動部隊主体バトルモデル時代へ移行すべきだと認識したのです。そして、制空権制覇へ資源を一斉投入しました。

 バトルモデルイノベーション。米英は、負けた原因を徹底的に分析し、「これからは制空権を支配したものが勝つ」と新モデルへの移行を急いだのです。

 他方、日本は何をしていたのか?日本軍は空で買ったにもかかわらず、まだ戦艦大和や武蔵を主力として闘おうとしていました。そして、最後の最後は、竹槍で抵抗しようという根性論です。そして日本は多くの尊い生命を奪い・失って負けました。

 どうでしょうか、かつての日本軍の思考法は、現在の日本企業の思考法と重なりませんか?従来モデルに固執、いや従来モデルそのものについての自覚もなく、さらに新しいモデルへの移行に気づかず、ましてや新しいモデルを作ろうともしない‥。自虐的に過ぎるかもしれませんが、私はそれくらいの危機感を持ってしまいます。と述べています。

 さらに彼は著書のなかで、インテルやアップル、そしてIBMも徹底して負けた経験があり、そこから現在の勝ちパターンを見出したことになります。彼らはみな一度負けたのです。負けたことが悔しくてしょうがなかったはずです。しかし負けた悔しさの中で徹底的に議論し、考え、そして「プロイノベーション」を主導するに至ったように見えます。と述べています。

 そして結論として、日本は教わることは得意ですが、自ら学ぶことがあまりうまくない国です。負けた時、悔しいとき、イギリス人は徹底的に振り返り、自省します。アメリカ人も、中国人もそうです。日本人は徹底的に解明することを嫌がります。しかしちゃんと振り返らないと「気づき、学び、考える」は起こりません。「気づき、学び、考える」の三点セットがとても重要なのです。振り返りを英語でリフレクション(省察)と言います。

 重要なポイントは、勝ったにせよ負けたにせよ、自分の経験事象を徹底的に省察してそこからいかに速く・深く・気づき・学び・考えるか、なのです。と妹尾氏は述べています。

 日本人は負けても、一生懸命やったから‥。と慰め合って「水に流す」という伝統があります。つまり、真摯に反省・省察しない。自分たちがなぜ負けたのか、もう一度振り返ることをしない。

 日本は自分たちが勝っている理由をわかろうとせず、負けている原因もわかろうとしない。水に流せばよいと思っているわけです。と述べています。

 

 こうなってしまった原因はいろいろあるとは思いますが、やはり大きなところは集団主義社会の弊害だと思います。日本では会社員は解雇されるリスクが極めて低いのですが、解雇された場合、再度チャレンジする機会もまた少ないのです。つまり会社にどうにか居続けるというのが今までは最良の選択だったわけです。いったんその道から外れるとなかなか浮かび上がれないという条件付けは強力なものでした。

 ですから、会社で行われていることが、きわめてエビデンスのないと感じても、合理性に欠けるように感じても、一人で異議を唱えることは控えなくてはなりません。ということは、この世界では、結果が悪く出ても自分のせいではなく誰かのせいということになります。これを社員だけではなく、経営者もこの感覚の延長である可能性は高いわけです。

 新入社員の時、最初に人を追い詰めてはいけないとしっかり教わりました。これは追い詰めてはいけない代わりに、自分も追い詰められないことを担保されたようなものでこの快適な社会で定年まで頑張りましょうという話でした。



 

 あれから30年以上経過し、元号も変わり、デジタル・ディスラプション(崩壊)の時代となりました。身の回りのライフスタイルは大きく変わり、何でもサブスクリプションにより配られるようになり、ネットで買い物もできます。世の中は大きく変わっています。しかし大学生の就活のスタイルや、大手指向というマインドには30年の間に、それほど大きな変化は見られず、それどころか経済的な沈下の影響か、大前氏のいう「低欲望社会」が蔓延し、若者の息苦しさが感じられるように見えます。

 そしてこの30年の間に、いつの間にか人生100年時代が訪れ、単線型のライフモデルという、教育・勤労・引退という3つのフェーズで構成される、20世紀において一般的とされた人生モデルが全く時代遅れになりました。これはせいぜい人生80歳のライフモデルで、もしここから20年生き延びる人生設計が必要となれば、それも年金支給が75歳という状況を加えるとどうなるか。少なくとも学びなおしを前提とした、生涯現役のマルチステージ型の人生にシフトする必要性が高まると大前氏は述べています。

 そして今まさに団塊の世代がその局面に立ち始めています。70代前半の彼らは就職氷河期だった子供の行く末を案じながら、今の世の中の変化に強い不安を感じています。健康に自信があれば人生100年時代のリアル感も感じ始めています。

 80歳以降、年金のみで標準的な生活水準を保つことが困難なことは誰にでも理解しやすいものです。またその前の世代が子供に依存していた余生が、自分たちには到底無理と感じるのも自然な流れでしょう。

 それでもバブル時代をくぐってきた団塊の世代は、それ以降の世代に比べれば、ポテンシャルは高く、標準以上の生活水準を保てるかもしれません。

 問題はそれ以降の世代で、これからは学びなおしを受け、複数のキャリアを経験して収入を得ながら、さらに一生学び続けるという人生を歩むことになるのかもしれないと大前氏は述べています。

 

 それでは、どう学んでいくか。素人の私が深く語れる内容ではないのですが、前述したリフレクションが役に立つかもしれないと考えています。

 よく日本人は明確な目標があると結果を出すと言われています。スポーツ系などがわかりやすいかと思いますが、陸上のように記録をめざす競技や、テニスなどのドローで勝ち抜くような、結果が明確に出やすい競技に対して、日本のアスリートたちは真摯に鍛錬してフィジカルの不利をカバーして世界的にも一流の結果を出すわけです。

 それに対して、今の時代の傑出した経営者は、最初から明確なビジョンがあったわけではないらしく、いろいろ試している間に、コアとなるスキームを見つけました。明確な目標に対して一番を目指すのではなく、答えのない世界で失敗を繰り返しながら、その失敗を分析しながら本筋を見つけたわけです。

 それになぞらえたか、どのビジネス本もやはり失敗を恐れず、という流れのものが多いのですが、日本人はやはり失敗には抵抗感があります。組織の中で一度失敗したら終わりという意識はなかなかぬぐいがたく、また再チャレンジするための環境の許容度もまだ高くはないと思えます。

 そういった日本人の思考を踏まえてでも、やはり前に進むには、経験事象を徹底的に分析して、簡単に水に流さず、リフレクションすることが良いと思います。

 リフレクションとは何かといえば、一言でいえば行為を通して学ぶということだと思います。一番身近なのは、医療におけるリフレクションだと思います。あの有名な失敗しない女医さんが手術前にありとあらゆる状況を分析、想定して、失敗しないようにしているというくだりがありますが、過去の経験事象の徹底分析から、ミスのできない手術を確実に成功させ、美しい最終術野を作るというのは、リフレクションの理想的な状況だと思います。

 少数の実践から徹底分析して、繰り返しシミュレーションし、結果を求められる状況で、確実な結果を出すのがリフレクションの最大の目的で、医療をはじめ技術系のいろいろな分野で応用されています。

 それらの行為を通して学ぶ限りは、成長が認められるのがリフレクションの最大の効果であり、今の時代の答えのない時代に何かを見出すのにも応用は可能だと思います。アマゾンのジェフベソスも最初から経営のフィールドにいたわけではなく、コンピュータエンジニアからのスタートでした。

 一方、技術系の人たちには馴染みのある(意識されているかどうかはわかりませんが‥)この独特な振り返りは、これまで本人たちの世界を狭めるという評価がありました。理科系独特の狭さに通じるのかはよくわかりませんが、リフレクションはどちらかといえば戦術的なもので、戦略的な局面にはその狭さがマイナスの影響を与えるという評価があったように思います。

 しかしこれから誰も経験したことのない世界が訪れるとすれば、数少ない経験の中から最適値を抽出するリフレクションは有効であると考えられ、技術者はそれに慣れているため使い方によっては大きなアドバンテージになると思います。

 自分の好きなことや慣れていることの中からこれぞと思うものがあったら、ぜひリフレクションを活用し、日本人の思考パターンを考慮しつつも、失敗を重く考えずに、キャリアを形成していければと思います。失敗の教訓を簡単に水に流すのは大変もったいないことで、徹底的な分析を重ねることで見えてくるものもあるのではないかと思います。

 学びなおしが必要な頃には、例えば教育費用の捻出などライフイベントごとの出費があり、自分に投資をするのは難しいかもしれませんが、気づいた時には遅いとならないように学び直しに取り組みんでみたら違う局面が訪れるかもしれません。



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