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   破壊的イノベーションとムーアの法則

 私が技術者であることに変わりはないのですが、技術者にとって向かい合う技術が生涯同じものであれば、それは幸運としか言いようがないのかもしれません。今は世の中で絶対と思われていた技術がいつの間にか取って代わられることが当たり前になりつつあり、簡単に趣旨替え出来ない技術者とは対照的であり、そこからも技術的失業は身近な問題なのかもしれません。



 そのような技術の置き換えを行うのは破壊的技術とよばれる新しい技術です。それは従来の価値基準では性能の低い製品を作る技術であり、新しい価値基準の下では従来製品よりも優れた特徴を持つ新技術のことです。たとえばコダック社といえば、20世紀末までフィルムなどのアナログ写真分野で最高品質の技術を持つ世界的大企業でした。その当時、強いアメリカを代表する大企業で、黄色いフィルムパッケージはとてもおしゃれで、発色などで他のメーカーに比べて圧倒的な技術力を持ち、高く評価されていました。しかし21世紀を待たずにデジタル写真の普及に伴うフィルム市場の急減により、一時的に倒産にまで追い込まれました。これは破壊的イノベーション(写真の美しさに関して言えば、デジタル写真のその当時の画素数の低さからはコダックは自社のフィルムが市場から駆逐されるわけはないと思っていたかもしれませんが、画質的に劣るものの融通性に勝るデジタル写真の波にあっという間に飲み込まれたことから、破壊的イノベーションの代表的な犠牲者とされています)の典型的なケースとなってしまいました。

 これと似たケースは様々な分野で起こっています。パソコンとスマホ等も、もう一つの代表例でしょう。今はパソコンの操作ができなくてもスマホがあればそれほど困らず、スマホは何より操作が直感的で簡単なので、途中で迷路に迷い込むことがまずありません。このスマホも最初は、バッテリーが持たないとかしょっちゅうフリーズするとか、落とすと割れるとか初期トラブルといえるような状況がみられました。しかし支払い端末などの機能も付加されて、生活の大部分に食い込んで来て今では生活になくてはならないものとなっています。モバイル端末が普及するに従い、パソコンは破壊的イノベーションに飲み込まれた感があります。

 このコンピュータの進化を支えたのが半導体の極小化であり、大型コンピューターからデスクトップPC、そしてラップトップPCへ、次にノートPC、最後にモバイル端末へと能力は変わらずにサイズダウンできたのは半導体技術者の努力のたまものです。そしてコンピュータ開発にかかわる企業はパソコンのサイズ変化のたびに入れ替わり、一つ前のコンピュータ企業から見るとそれは破壊的技術となりました。そしてその裏付けとなったのがムーアの法則です。

 

 ムーアの法則とは「半導体集積回路のトランジスタ数は2年ごとに2倍になる」というもので、インテル創業者の一人のであるゴードン・ムーア氏が1965年に提唱しました。半導体の技術革新はほぼムーアの法則通りに進化したことから、ムーアの法則は絶対的な指標とされてきました。別な言い方として、トランジスタ数を「性能」に置き換え、ムーアの法則を「コンピュータの性能は18か月で2倍になる」と表現することもあります。一昔前のスーパーコンピュータと今のスマホはほぼ同じ性能であるとよく言われますが、これは集積回路がこの法則通りにサイズダウンすることにより実現したわけで、これからのAI時代にはさらなる回路の微細化が求められることになります。

 こうした進歩の速い技術の中には、コンピュータの進化と同じような変化を短期間で達成したものがあります。たとえば航空機は、エンジンがキーデバイスとなり、急激に技術革新が進みました。

 1943年ジェット機は実用化されたのち、10年後には音速を超え、さらに10年後マッハ3を超えることになります。しかしその後50年以上マッハ3をこえるジェット機は出現していません。マッハ3を超えるためのエンジンや耐熱金属の問題や、ミサイルやドローンなどのジェット機に対する破壊的技術が進歩したこともあり、これからも開発されることはないかもしれません。

 旅客機は1950年代後半第一世代のジェット旅客機が就航しましたが、運行中は音速を超えませんでした。しかし1976年(今から40年以上前)コンコルドというヨーロッパで開発された超音速旅客機がマッハ2.2を出し、ニューヨークとパリをおよそ3時間で結びました。この飛行機も環境問題、燃費それに不運な事故も起こり2003年運航を停止しました。それ以来音速を超える旅客機は開発されていません。その当時はパリから3時間でニューヨークに行けることがビジネスの意味を持つとして、ビジネスマンが必要としたといわれています。しかしインターネットが世界を覆うようになり、ビジネスに限れば超音速機にリスクを覚悟で乗る必要はなくなったのかもしれません。

 旅客機に関しては大きな旅客機を作るという人類の野望はボーイング747が実現しましす。それまでの旅客機の座席数に比べておよそ3倍になり、1969年に就航しました。そして今ジャンボ(B747)は第一線からほぼ退きました。

 これからの旅客機は見た目は40年以上前のA300という双発機と大きな変化はないのですが、代わりに燃費や騒音、大気汚染などの環境問題に配慮する技術が進化し、中身は別物といえるくらいの変化をしています。

 人間のより速く、より大きくという欲望は立派な形となりましたが、中心となる技術が今から50年以上前のものであり、どれも環境への配慮を欠いたもので、運用に際していろいろな問題があり、それ以上の結果を出すことが出来ませんでした。航空機においてはムーアの法則的な急激な進歩があったのは戦後30年間ぐらいだと思います。

 半導体に関して言えば、50年以上ムーアの法則は継続中であり、このサイズダウンと能力向上はコンピュータの世界に大きな変化をもたらしました。問題は半導体というキーデバイスの進化が止まった時にはどうなるかということです。その時は航空機と同じように省エネなどの技術がゆっくり進行していくのかもしれません。

 

 第3次産業革命の目玉の一つの自動運転車に関しては、電気自動車というパッケージが予想されていますが、その時自動車用エンジンはどうなるでしょう。自動車用エンジンも航空機用エンジンほど急激ではないものの、著しい進歩があり、自動車産業を支えました。そして今環境などの問題が大きくなり、電気や水素といった化石燃料以外の自動車が世の中のニーズとして開発されつつあります。

 その一つの電気自動車に関しては、特徴の一つに部品数が既存の自動車に比べて圧倒的に少ないということが言われています。既存の自動車の部品数の多くはエンジンが占めるわけであり、自動車の急激な電気化は業界に大きな影響を与える可能性があります。電気自動車は破壊的イノベーションになる可能性があり、これを避けなければ、メーカーはもちろん、エンジン関係の膨大な裾野企業の存亡にかかわります。

 しかしここでエンジンという持続的技術に固執すれば、既存メーカーが破壊的イノベーションに追い込まれる可能性は高くなります。ではメーカーはどうするかといえば、持続的技術のエンジンと破壊的技術のモーターと蓄電池とのハイブリッド技術により破壊的イノベーションを抑え込んでいるように見えます。さすが日本の企業ともいえますが、最先端の技術を持つ自動車産業でさえ破壊的イノベーションの危機にさらされる時代だとも言えます。

 大企業は、本体もそうですが裾野の企業も含めた巨大ファミリーであり、破壊的イノベーションを仕掛けてくるのはどちらかといえば、新興の怖いものなしのベンチャーであることが多いといえます。そして大企業の場合、企業の根幹である持続的技術は死守しなければならず、それにより新技術へのレスポンスが一瞬遅れることとがあります。するとその間隙をついて、ベンチャーが破壊的イノベーションを仕掛けます。最初企業にとってその影響は軽微なのですが、ユーザーが次第に破壊的イノベーションを仕掛けた側に向いてしまうと、状況は一気に変わってしまいます。やはり経済の世界は冷静で厳しいものであり、勝った側の総取りという結末しか待っていないこととなります。

 破壊的イノベーションは身近なところでも存在します。デパートなどの店舗を持つ小売業に対して、ネットショップがそれにあたると言われています。ネットショップは実店舗がないので、直接買いたいものを見れませんが慣れると24時間どこからでも購入できるなど、店舗にはない良さがあります。それにネット関係の企業はとりあえずやってみて、うまくいかなかったらすぐにバージョンアップします。そしてそれを繰り返し、ユーザーの不満を解消する努力を怠らないとなると、実店舗は苦戦を強いられることとなります。



 

 今まであった仕事がなくなってきたら、それは破壊的イノベーションが静かに進行しているかもしれません。あなたに直接向かうものではなくても、関係する企業や取引先に

今までにない動きを感じたらそうである可能性はあるでしょう。

 ICTがこれまでにないほどに普及すると、AIなどを土台とした破壊的イノベーションが取引先や関係企業などに迫ってくる可能性があります。もしそれらがムーアの法則状態で急激な進歩を伴うものであったら展開は一気に進むことになりかねません。渡部恒郎氏は、日本企業の99%ともいわれる中堅・中小企業の経営者の年齢のピークは66歳でここ20年間に19歳も上昇したと述べています。高い持続的技術に支えられ、安定的に経営していたそれらの企業は、これからどうしても破壊的イノベーションに狙われる可能性があると思います。

 そこからみると、これから発展するであろう企業は、持続的技術を持ちつつ、チャンスがあれば破壊的イノベーターとして業界をダイナミックに変革することを狙うスタンスが必要かもしれません。

 破壊的イノベーションとは第三者的に見ればその時代に合わない企業を今の企業に差し替えすることであって、AI時代となれば、それまでの技術の延長である持続的技術のフレームが瞬時に壊されることも想定できます。

 技術者としては、最先端のテクノロジーが自分の業界にとって破壊的イノベーターとなりうるかという発想を持ちを注視することが重要でしょう。情報は潜在していますから、学ぶチャンスを逃さないようにしたいものです。 

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